2019年02月17日

iPhone/iPadのBluetoothオーディオ - AACの周波数特性

soundsync-6.jpg

先日入手したAnker「Soundsync A3341」Bluetoothトランスミッター&レシーバーは、Bluetooth通信チップに「Qualcomm CSR8675」という最新デバイスを採用しており、最新のBluetooth 5.0対応およびaptX-HD/LLオーディオコーデックも搭載しています。

残念ながら、iPhone/iPadなどApple製品においてBluetoothオーディオではAACとSBCしか対応していません。

音がいいと言われているaptX系コーデックはQualcommが保有する技術なのですが、、、両社が係争中のために、Apple製品に搭載されている無線通信デバイスではQualcommが排除されているらしいです。

とりあえず、手元にあったiPhone6sおよびiPad mini2(いづれもiOS12.1.4)でBluetoothオーディオを試してみました。

iPhone6s/iPad mini2を送信側、Soundsyncを受信側としてBluetooth接続すると、Musicアプリの音楽再生が問題なく通信できることを確認しました。

とくに音が途切れるようなこともなく、ボリュームも遠隔コントロールできます。再生音質は事前の想定よりはいい感じですね。

受信側のSoundsyncでは、AACの選択ステータスが表示(電源ボタンのところにあるLEDの点滅表示)され、さらに光デジタル接続するとサンプリングレート44.1kHzでデジタルデータ出力されていることも確認できました。
他社製品ではどんなオーディオコーデックが選択されているか表示されないので、Soundsyncはとてもいい製品だと思います。

オリジナル音楽データは44.1kHzサンプリングのALAC(Apple Lossless)でしたが、送信端末側でBluetooth送信処理時にAACで再エンコードされているようです。

もし音楽データがAACフォーマットの場合でも、いったんリニアPCMにデコードされ、他のサウンドデータ(着信や通知音など)とミキシングされて再びAACエンコードされるようです。

#iPhone/iPadでのBluetooth通信・オーディオ接続状態
・オーディオコーデック:AAC
・サンプリングレート:44.1kHz

そこで、このBluetooth通信でのAACコーデック時のオーディオ信号が、どのような周波数特性をもつのか調べてみました。

ノイズ生成アプリ「Colored Noise Generator」を起動させてホワイトノイズ信号を生成して無線送信し、SoundsyncでBluetooht受信したデジタルデータを評価してみました。

下記は、全周波数帯域でフラットな特性をもつホワイトノイズでのFFTによるテスト解析結果です。(画像をクリックすると拡大表示できます。)

赤ラインがFFTのピークホールドで、サウンドデータの周波数特性に相当します。緑ラインはホワイトノイズの瞬間値になります。

<ホワイトノイズ:送信側アナログ出力>
CNG-white-analogout-3.png

<ホワイトノイズ:Bluetooth通信経由の受信オーディオ信号、AAC、44.1kHzサンプリング、デジタル出力>
CNG-white-bt-opt-3.png

いづれの周波数特性とも低周波から高周波までほぼフラットでかなり優秀な特性です。

しかし、FFT解析結果を比較すると、Bluetooth接続した受信側オーディオ信号には、19kHz以上の周波数成分がまったく出力されていません。

オーディオ信号生成アプリ「Audio Tone Generator」でサイン波スィープ信号や19kHz以上のサイン波を出力して試しましたが、まったく同様の結果でした。

結論として、Bluetooth送信時に、サウンドデータの周波数帯域が制限されているようです。つまり、AACの再エンコードの際に、急峻なデジタルフィルタで高周波帯域をカットしているものと推察されます。

残念ながら、Bluetooth 4.x接続において、現状のAACのオーディオ特性にはすこし制約があるようですね。(iPhone6sはBluetooth 4.2、iPad mini2はBluetooth 4.0)

おそらく無線通信伝送レートの制約で、AACエンコードのビットレート(おそらく、128-192kbps程度)に制限がかかり、オリジナルサウンドデータから高周波成分をカットしたようなAACエンコードをおこなう必要があるためだと思います。

ちなみに、iTunesで、DENONのAudio Check CD(COCQ-83805)のホワイトノイズ(20-20kHz)をAAC-192kbpsエンコードでリッピングしたデータのFFT解析結果をつぎの示します。やはり、19kHzを少し超えたあたりから、高周波成分が急峻にカットオフされています。

<ホワイトノイズ:iTunes AAC-192kbpsエンコードデータ、MacBookProアナログ出力>
white-noise-iTunes-AAC-192kbps-2.png

また、AAC-128kbpsエンコードでは約18kHzで高周波成分が急峻にカットオフされていました。つまり、AACエンコード時のビットレートによってカットオフ周波数はかなり異なるということみたいです。

無理に高周波成分の再現性にこだわって変なノイズ成分が混入するよりは、聴感上で聴きやすい音質にチューニングするためでしょう。

Bluetooth自体はかなり制約の多い規格なので、多くを求めるのは難しそうですね。Bluetooth 5.0対応端末が手元にないので未確認ですが、Bluetooth接続ではaptX-HD/LLやLDACを使えるAndroid端末にはサウンドクオリティでかなわないと思います。AppleとQualcommとの特許係争が早く収束して、上位オーディオコーデック規格も使えるようにしてほしいものです。

やはり、Apple製品の場合、本格的なオーディオ品質を云々いうにはBluetoothオーディオではなく、AirPlay 2をつかうべきなんでしょうね。WiFiなので、室内環境しか適用できないのは残念ですが、、、

#追記(2/18/2019)
Bluetoothの最大通信速度、データスループット、受信側AACデコーダ能力など各種条件に応じて、相互接続の伝送パラメータが決まるので、送信側・受信側のいづれでAACエンコード条件に制約を生じているのかはっきりしません。

Bluetooth 4.xの物理層での最大通信速度は1Mbps、データスループットの理論値はver4.0で305kbps、ver4.2で805kbpsです。ということで、もうすこしAACのビットレートは上げられそうな感じなのですが、、、

また、Bluetooth v5.0では、最大通信速度が2Mbpsに拡大され、データスループットも1.43Mbpsとアップしていますので今後期待できそうです。

#追記(2/20/2019)
ホワイトノイズによる各周波数特性グラフをすこし見やすいものに変更しました。画像クリックすると拡大表示できます。

参考までに、サイン波の周波数応答を測った解析結果を以下に示します。やはり、Bluetooth経由の受信オーディオ信号では、19kHzで -40dB以上低くなり、20kHzでは -80dBとほとんど出ていませんね。

<サイン波:送信側アナログ出力>
ATG-sine-anlogout.png

<サイン波:Bluetooth通信経由の受信オーディオ信号、AAC、44.1kHzサンプリング、デジタル出力>
ATG-sine-bt-opt.png

#追記(4/24/2019)
4/16付で、Apple社より「QualcommとApple、
すべての訴訟の取り下げで合意」というプレスリリースがありました。
これでAppleはQualcommのチップを堂々と採用できますし、QualcommもAACなどApple保有技術のサポートが可能になるものと思われます。Appleユーザーにとっては今後の5G対応のこともありますし、とても喜ばしい限りです。

プレスリリース内容:
・合意は、Appleの契約メーカーとの間で係争中のものを含む継続中のすべての訴訟を終了させる
・両社は全世界特許実施許諾合意とチップセット供給合意に至った
カリフォルニア州サンディエゴおよびクパティーノ、QualcommとAppleは本日、全世界で両社間で争われているすべての訴訟を取り下げることで合意したと発表しました。合意にはAppleからQualcommへの支払いが含まれています。両社はまた、2019年4月1日を発効日とする6年間の実施許諾合意に至り、これには2年間の延長オプションと複数年にわたるチップセット供給合意が含まれています。
posted by toons at 10:11| Comment(3) | オーディオ
この記事へのコメント
大変参考になる記事ありがとうございます。
Amazon Music HDを音源としたワイヤレスによるオーディオ環境を整えようと思い、そもそもワイヤレスとはなんぞやと勉強始めたばかりのものです。
当方の知識不足で記事内容の理解は限定的ではありますが、やはりBluetooth接続はやはりカットオフによる劣化が大きいみたいですね。
音質面では48.0kHz頭打ちではありますがairplayが良いのでしょうね。ちなみにairplayは実測で劣化等はないのでしょうか。
Posted by a at 2020年05月02日 00:03
コメントありがとうございます。

かなり以前に試した実測ですが、ご参考になってよかったです。

AirPlay対応機器を持ち合わせていないので、残念ながら同様の実験はできていません。(製造中止の古い第3世代AppleTVには光デジタル音声出力あったので検証は可能かもしれませんが、現代のAppleTV 4KなどはHDMI出力のみになっています。)

AirPlayはストリーミング技術なので、物理層に自由度があります。ワイアレスでは最新のWiFiフォーマットも利用できるので、転送帯域もかなり高くとれます。
とくに高音質なオーディオコーデックのApple Lossless(ALAC)が利用できますので、音質面ではとても有利だと思っています。さらに、AirPlay2ではデータバッファが”分単位”とのことで、ワイアレスでのデータ欠損による音切れなどにも強そうですね。

・音声フォーマット:PCM、Apple Lossless(ALAC)、AAC、AAC ELD

とくに伝送帯域の制限がなければ、AirPlayの周波数特性はフラットのはずです。
しかし、AirPlayでも伝送帯域が低く制限された場合、その音質や周波数特性がBluetoothと同じようにかわってくると想像されます。
たとえば、伝送レートを低く制限する場合、一般的なオーディオコーデックでは一定の圧縮率をキープするのが難しくなります。
ロスレス方式であるALACでは圧縮率が30 -70%などと音楽データに依存して大きく変動します。
もし、ワイアレスの伝送帯域が低ければ、Bluetoothオーディオと同じように高域カットオフして、もとのデータ量自体を制限してしまう可能性も高いと思います。
Posted by toons.t at 2020年05月02日 02:57
回答いただきありがとうございます。

なるほどAirPlay2は分単位のバッファとなると、安定性において期待できそうですね。
問題はネットワーク自体の伝送帯域ということでしょうか。
自宅でのWifi通信速度は夜間遅延することが多いので、これは懸念事項となりそうです。

或いはPC前提でaptXを用いた場合と比較して、総合的にどちらが有利かということを自身で判断する必要がありますね。

学びたての者に、ここまで丁寧に説明していただき本当に助かります。
ありがとうございました。
Posted by a at 2020年05月04日 18:43
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